ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Dear Frankie Dear フランキー

イギリス映画 (2004)

女性監督らしい繊細なタッチの映画。何と言っても気に入ったのは、フランキーの “仮の父” 役を、請け負ったジェラルド・バトラー。このサイトは少年を対象にしたものだが、私は大人の映画もたくさん観ていて、ジェラルド・バトラーの出演作は10本観ている。一番のお気に入りは『300』(2006)。この古代のテルモピュライの戦いを壮絶に描いた映画で主役のレオニダスを演じたのがジェラルド・バトラー。その彼が、僅か2年前に撮ったのがこの作品。非常に精悍な顔は、最初、フランキーの “仮の父” としては相応しくないように思えるが、表情が温かくなるにつれ、2人の仲はどんどん良くなっていく。対するフランキーの母役のエミリー・モーティマーは、近年の『マイ・ブックショップ』(2017)ではいい味を出しているのに、2004年頃と言うと、つい、『ピンクパンサー』(2006)を思い出してしまう。この映画での彼女は、変に意固地で、フランキーの母に相応しくないような面も見られて、あまり好きになれなかった。そして、フランキー。聴覚障害者なので台詞は、僅か3単語しかないが、映画の感動を盛り上げるのに貢献している。特に、エンディングは素晴らしいの一語に尽きる。この映画の受賞が監督に集中しているのは、そのためか? なお、この映画は、全編スコットランド方言に満ちている。aye(yes)、wee(small)、wasnae(wasn’t)、cannae、doesnae、didnae、shouldnae、wouldnae、gonnae(going to)などの独特の単語と、アクセント。そこで、以前、『Billy Elliot the Musical Live(ビリー・エリオット/ミュージカルライブ)』(2014)の時にやったように、ロンドンを東京に見立てれば、それに匹敵する文明の集積地はスコットランドしかないので、大阪に見立て、大阪弁を使用した。変換には、https://www.8toch.net/translate/ を使用したが、「ぼく」に関してだけは、多くのサイトに、「わし」とは言わないと書いてあったので、「ぼく」のままとした。

フランキーの家族(母と祖母)は、逃げ別れた夫に捕まることを恐れて引っ越しをくり返し、祖母は、新聞の案内広告欄に、死亡記事でも載っていないか毎日確認してはがっかりしている。今度引っ越した町は、グラスゴー近くの港町。フランキーが幼い頃別れた父を、母が、“架空のまともな存在” にしようと、数年前に貨物船の下級船員だと話した。母は、この嘘を本当に見せるため、グラスゴーの私書箱宛に父に手紙を書くようフランキーに勧め、母は、その手紙を月2回私書箱に回収に行き、返事を書き、きれいな切手を中に入れて郵送する。本来は、海外渡航の貨物船なので、返信封筒の消印がスコットランドなのは変だと思われるところを、母は、予め、外航航路の船から出すとそうなるのだと教えてあるので、フランキーは疑わない。そして、彼は、自分の部屋に貼った世界地図に、母が、勝手に決めた寄港先にピンを付け、眺めて悦にいっている。フランキーは聴覚障害者だが、新しく移ったクラスにいるリッキーという少年が、変にフランキーに興味を持ち、勝手に部屋に入って来て、地図のピンに書いてあるAccraという船名を見てしまう。そして、母の「嘘」が崩壊を始める。というのは、その頃、“存在しない父” からの手紙が届き、そこには、アフリカ大陸南端のケープタウンにもうすぐ着くと書いてあった。それからそう遠くないある日、リッキーは、Accraという貨物船の入港を知らせる記事をフランキーに渡し、賭けをして、父が会いに来なかったら、フランキーがこれまで収集した父からの切手全部をもらうと言い出す。ケープタウンにいた船が、そんなに早くグラスゴーまで来たことに、フランキーが疑問を持たなかったことには救われたが、母は、会いたいという フランキーの父宛の手紙を読んでびっくり。何とかしなくてはと、その日、1日だけ父親役をやってくれる人を探そうとするが、簡単には見つからない。ところで、一家が入った3階建てのアパートの1階にはリジーという親切な女性が経営しているチップショップが入っていて、母は、リジーに勧められてパートで働いていた。その親切なリジーがお膳立てをしてくれ、1人の男を紹介する。母は、その男に事情を説明し、フランキーが書いた手紙の束も渡す。翌日、男は、手紙をちゃんと読み、フランキーの気に入りそうな本を1冊プレゼントし、フランキーに気に入られる。2人は、まず、リッキーの前に現れ、賭けに勝ち、その後、男は、フランキーをAccraの所まで連れて行く。そして、水切り石の投げ方を教え、途中で寄った水槽では、フランキーがタツノオトシゴに魅せられる。そして、アパートに戻って来た男は、意外なことを言い出す。あと1日いるから、もう一度会おうと。感謝してもいい言葉に、母は、最初、ひどい言葉で反対する。しかし、フランキーのたっての希望で夢は実現する。しかし、翌朝、一家にはさらなる衝撃が走る。母の若い頃の写真とともに、地元紙に尋ね人の広告が掲載されたのだ。午前中、グラスゴーまで夫の姉に会いに行った母は、夫が死に瀕しているので、フランキーに合わせるよう頼まれるが、母は、まず自分が夫に会ってからと条件を付ける。そして、その午後はフランキーを “父役” に会わせに埠頭のAccraまで連れていく。男は、わざわざ船員にチップを払ってAccraに乗船し、あたかも船員のように、手を振る。その日の夜、子供達も参加した地域のダンス・パーティで、母は、“父役” の男と初めて踊る。それを見ているフランキーは幸せそうだ。その夜、アパートに戻ったフランキーは、タツノオトシゴの木彫りを “父役” にプレゼントする。そして、アパートの出口で、母と “父役” はキスを交わす。そして、翌日、母は、夫の病室を訪れる。夫は確かに死の病の末期だったが、それでも、母は、フランキーを連れてきて欲しいとの夫の要望を拒み続け〔フランキーの聴覚障害の原因は夫にあった〕、夫は、以前と変わらぬ暴力的な言葉でわめき散らす。アパートに帰った母は、フランキーに、父は重い病気だと告げ、数日後の新聞には死亡通知が載る。母の様子から、先日訪れた優しい “父役” は本当の父ではないと気付いたフランキーは、“父役だった友達” に、新たな手紙を出す。それを読んだ母は、すべてを悟る。

タイトル・ロールのフランキー役は、ジャック・マクルホーン(Jack McElhone)。1994年6月16日生まれで、撮影は秋なので公開前年の2003年と考えれば、9歳3-4ヶ月で、映画の設定とほぼ同じ。

あらすじ

フランキーが、自分の貴重品をダンボール箱に詰め、箱の蓋に、「フランキー・モリソン、取り扱い注意!!!」と書き、箱をかかえて、家から出てくる(1枚目の写真)。このタイミングで、フランキーのナレーションが入る。「父ちゃん、知っとった? また、引っ越しなんや。ママは、今かて。この前も、これが絶対最後や言うとった。せやけど、いつだってそうなんや」。母が運転し、助手席に祖母、2人の真ん中にダンボール箱を抱えたフランキー〔自分で持っているなら、なぜ「取り扱い注意」などと書いたのだろう?〕を乗せたボロボロのバンは、スコットランド南部の田舎道を走る。そして、見えてきたのは港町グリーノック(2枚目の写真)。3枚目の写真は、若干手前の、町全体を見渡せる地点でのグーグル・ストリートビュー。海の右端は、クライド川となって約30キロ先のグラスゴーにつながっている。「父ちゃん知っとった? 今度こそ… やっと、海辺に住めるんや。世界とつながったトコに〔父は船乗りなので、“会えるかもしれない” という期待を込めた言葉〕
  
  
  

アパートの3階に荷物を運び終わると、母は、フランキーに、「チップショップ〔フィッシュ・アンド・チップスがメインの店〕に行って、2人分のお魚の夕食買うて来て」と言い、注文を書いた紙と お金を渡す(1枚目の写真)〔3人いるのに、なぜ2人分?〕。祖母は、タバコを吸う素振りを見せ、一緒にタバコも買ってくるよう頼む。フランキーが出て行った後で、祖母は、「もっと、あの子にしゃべらせへんと。声はどこも悪ない。可愛いちっちゃな声やわ」と母に注意する。チップショップでは客の列ができていて、映画ではフランキーは2番目ですぐ順番が回ってくるが、後ろには4人いる〔フランキーも かなり待たされていた〕。フランキーの番になると、母が書いた紙を店主の女性に渡す。それを読んだ女性は、紙皿にチップスを入れるが、それを見たフランキーはカウンターをドンドン叩く。そして、声には出さないが “もっと” と口の形で要求する。女性は、ユーモアたっぷりに 「仰せの通りに〔Your wish is my command〕」と言うと(2枚目の写真)、チップスを山盛りにする。そして、その上にタラのフライをのせる。2番目の皿にフライを置こうとすると、またカウンターを叩き、首を横に振り、人差し指を立ててフライは1つでいいと頼む。「1つだけね?」。唇が読めるフランキーは、笑顔で頷く。「お安いご用で」と言い、1つはフライなしで包む。そして、紙に書いてあった、何かのボトルを1本横に置くと、「以上ね」と言う。フランキーは、祖母に頼まれたタバコを追加しようと、タバコを吸う真似をする。「あんた幾つ?」。フランキーは、左手を広げ、右手は小指を半分残し、9歳半だと言おうとする(3枚目の写真)。女性は、「あと、6年半後に、戻ってらっしゃい」と言う。アパートに戻って来たフランキーに、祖母は、さらに無謀な行動を要求をしたので、それを聞いた母は、自分で店まで行き、列の1番と2番の間からお金を出し、「エンバシー・リーガルちょうだい」と言う。「皆さん、並んでまっせ」。「息子が並んどったわ。予め言うとくと、うち、16歳以上やで」(4枚目の写真)。「その他もろもろね〔さっきの買い物の続き〕。ちょい待っとって〔hold your horses〕」。そう言うと、1番の客の次に入れる。
  
  
  
  

新しい自分の部屋に行ったフランキーは、ベッドの上に切手のアルバムを置き、「父ちゃん、切手、ありがと」と言いながら、ページをめくる(1枚目の写真)。そして、そのままページをめくって裏表紙までくると、そこには、“ウェディングドレス姿の母” の古い写真が貼ってある。母の左には、新郎の父が映っていたのだが、今は、乱暴に破り取られて顔が分からない。そこに、フランキーは新しく届いたエアメールに入っていた切手2枚を出す。「ホオジロザメは最高。これまで送ってくれた中でも、一番かも」(2枚目の写真、矢印)「母ちゃんは、これがいっぱいになったら、新しいの買うてくれる言うとった」。フランキーはホオジロザメの切手を新しいページに貼ると、「父ちゃん 知っとった? ホオジロザメは、水から飛び出してボートをひっくり返すねんて。父ちゃんのちゃうで。父ちゃんのは巨大やさかいな。他にもあるんや。なんか分かる? ぼくの窓から、海が見えるんや」。このナレーションとともに、フランキーは父への手紙の宛名を書き、封筒を舐めて封をする(3枚目の写真)。宛名は、「Petty Officer〔下級船員〕 Davey Morrison〔父の名前〕/℅ Accra〔船名〕/P.O.Box〔私書箱〕 2642/St.Vincent street Post Office〔郵便局〕/Glasgow〔グラスゴー〕」となっている〔貨物船の船員に手紙を送る時は、船会社に手紙を送ってもらうのが普通。送り先が私書箱になっているのは変だが、後で理由が分かる〕
  
  
  

翌日、母はフランキーを地元の小学校に連れて行く。途中で、フランキーは、昨夜書いた父への手紙を投函する(1枚目の写真、矢印)〔日本が1908年から赤色のポストを採用した原点〕。フランキーが編入されたクラスでは、事前に教師から聴覚障害について、生徒に注意喚起がされている。1人の女生徒は、「耳が聞こえへんって、どんな感じですか?」と質問し、その直後に、いかにも悪戯好きな男生徒が、「すごいねん。母ちゃんに叱られたって聞かんでええんや」と笑顔で言う(2枚目の写真)。生徒達は笑うが、一番真面目な女生徒は、「せんせ、それって、耳が全部塞がれた時に、なんもかもが何マイルも離れてるみたいに感じるようなもんですか?」と質問。教師は、「それも、確かに一つの考えね」と言うが、全員に対して、「覚えておくのよ。その子に、大声で叫んだりしないように」と言った後で、さっきの男生徒に、「リッキー、聞いてる?」と訊く。「せんせ、なんか言うた?」と、聴覚障害の振りをする。そこに、校長か教頭が、フランキーと母を連れて教室に来る。そして休憩時間中の校庭。フランキーが一人ぽつんと孤立していると、同じように孤立していたさっきの真面目な女生徒が、手袋を取ると、手話で、「HELLO」と挨拶する(3枚目の写真)。それを見たフランキーが、「どうやって知ったの?」と手話で訊くが、彼女が知っている手話が他にないらしく、フランキーの手話も理解できず、ただ「HELLO」をくり返す。
  
  
  

アパートに帰ったフランキーは、部屋の窓を開けて海を見てみる(1枚目の写真)。この3階建てのアパートは、グリーノックのFinnart通りに面し、Patrick通りの起点〔T字路〕に建っている。2枚目のグーグル・ストリートビューは、Patrick通りの路面の高さからの視点なので、1枚目の3階からの視点とは若干見た目が違っている(1枚目の写真の青い小さな矢印の出窓と、2枚目の写真の黄色の矢印の出窓が同じ)。この場面の直後、その日の後半の授業に対するフランキーのナレーションが入る。「父ちゃん、学校で地理をやった。ぼくの得意科目や」。そして、その場面。教師が、世界地図でペルーを指すと、フランキーは、小さなノートに「PERU」と書いて教師に示し、「よくできたわ」と褒められる。隣に座っているリッキーとの顔の対比が面白い(3枚目の写真、矢印は「PERU」)。面白くないリッキーは、フランキーの机に鉛筆で、「DEF BOY」と書いてニヤニヤするが、すぐにフランキーが、EとFの間にAを書いてスペル・ミスを指摘すると、“やられた” という顔になる。「友だちができた。名前は、ミッキー・モンロー。地理はぜんぜんあかん」。
  
  
  

母は、その間にグラスゴーまでバスで行き、St.Vincent通りにある郵便局を訪れ、係員に「私書箱2642」と依頼する。そして、係員から1通の手紙を受け取る(1枚目の写真、矢印)。「私書箱2642」は、フランキーが封筒に書いたアドレスと同じなので、フランキーがいつも父に書いていた手紙は、Accra号の下級船員のDavey Morrisonなんかには届いておらず、常に母が受け取っていたことになる。母が次に寄ったのが、グラスゴー市内の切手の専門店。店主は、「いつお越しになるかと思っておりました。いい品を取ってあります」と言い、豪華客船クイーン・メリー号の切手を見せる(2枚目の写真)。この会話から、母がこの店の常連で、従って、フランキーが大切にしている “父からプレゼントされた切手” のすべては、母がこの店で買っていたことも分かる。そして、さらに、「父ちゃん、知っとった? また、引っ越しなんや」とフランキーが言っていた “引っ越し” とは、遠距離での引っ越しではなく、グラスゴーの近郊をあちこち移動するような引っ越しだったことも。母は、その店のテーブルに座ると、さっそく、フランキー宛の手紙を書き始める。その際のナレーションは、最初、母の声で始まる。「よお、フランキー。自分のコレクションに凄い奴を送る。クイーン・メリーや…」。しばらくすると、ナレーションの声が、男性に変わる。如何にも、幻の父がその手紙を書いているかのように。「…俺たちは、今、ケープ〔南アフリカのケープタウン〕に向かって航行中や…」(3枚目の写真)〔母が書いている手紙の上に置いてある封筒の文字は、3つ前の節で彼が書いていたのと同じ文字。グリーノックから30キロ先のグラスゴーなので、すぐ着くのはいいが、母が返事をすぐに投函したら、いくらフランキーでも変に思うだろう。なぜなら、“父” が手紙を受け取るのは、Accra号が港に着いた時。そこで返事を書き、船の中のポストに投函し、それが出港前に回収されて現地の郵便局に送られ(“父” が寄港先の市内のポストに投函したとすれば、その国の消印が押されている必要があり、それは母には不可能なので、こうした回りくどいルートを口実として設ける必要があった)、さらにイギリスまで届けられるのに、いくら早くても最短で2~3週間以上はかかる〕
  
  
  

ある日、リッキーが、突然、フランキーのアパートを訪れる。そして、予告なしに、フランキーの部屋のドアを開け〔ドアの開いた音が、フランキーには聞こえない〕、室内を見渡すと、壁に貼られたフランキー自筆の変な絵を見た後、引き出しに置いてあった小型のナイフを手に取り、初めてフランキーを正面から見て、「キモイな」と言う(1枚目の写真)。そして、靴を履いたまま、ベッドの上に上がると、大きな世界地図に赤いピンがいっぱい刺してあるのを見ると、1つ外して、ピンの頭の紙の文字を読む。「A-C-C-R-A」(2枚目の写真、矢印)。「これ、なんや?」。すると、いつの間に来たのか、母がドアの所にいて、「パパの船の名前やで。それに、ガーナの首都」と教えた後で、「まさか、リッキー・モンローちゃうわよね?」と言い、相手が否定しないのを見て、「リッキー、ベッドから降りなはれ」と命じて、部屋を出て行く。その場面の直後のシーンで、玄関に出た母は、チップショップ店の女性に、「おおきに。申し出には、感謝するけど、ここに、そない長ういへんかもわからへんさかい」と断る。女性は、「ただのパート・タイムやで」と言う。母:「考えとくわ」。すると、背後から、祖母の声が聞こえる。「考える必要なんかあらへん。受けるわ。いつから始めたらええか、言うてちょうだい」。かくして、母は、1階のチップショップ店で働くことになる。
  
  

それからかなりの時が流れ、ある日、フランキーが玄関のドアを開けると、床にエアメールの封筒が落ちている。それを拾ったフランキーは、封筒を手に取ると、食堂にいた2人に見せびらかす(1枚目の写真、矢印)。そして、自分の部屋に急いで行くと、ベッドに寝っ転がって読み始める(2枚目の写真、内容は、先日母が書いていた辺り。エアメール封筒に書かれた住所は、映画の中の設定で、架空の地名)。「俺たちは、1週間前に赤道を越えた。すぐに、ケープに入港する。船上では、今ホンマに暑い。手すりで火傷するくらいだ…〔ケープタウンの4月(スコットランドは秋)の平均最高気温は25℃。ケープタウンの緯度が34度と、大阪の緯度とほぼ同じ “温帯” に属することを知らない母が、アフリカだからと勘違いしてオーバーに書いてしまった〕(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

それから何日経過したのかは不明だが、映画では、先のシーンの直後、フランキーがクラスに行くと、リッキーがポケットから折り畳んだ紙を取り出して、フランキーの机の上にポンと置く(1枚目の写真、矢印)。フランキーが紙を広げると、それは、新聞の一部を切り抜いたもので、19日(土)に、4107トンの貨物船ACCRAが、フランキーが住んでいる港町に到着予定だという記事だった(2枚目の写真)。学校からの帰り、フランキーが 仲良くなった真面目な女生徒と一緒に埠頭を歩いていると、そこに自転車に乗ったリッキーがやってきて、行く手を遮る。「よお、フランキー、父ちゃんに会えるってんで興奮してるか?!」。少女は、「やめなはれや」とリッキーに言うと、フランキーには、「あんなん無視して」と言うが、リッキーはお構いなしに続ける。「賭けてもええ。船が来るって知らへんかったろ!」。少女:「知っとったわよ、アホね。それに叫ばのうたってええねん。唇を読めるさかい」。「自分の父ちゃんが来えへん方に、俺のカード全部賭ける。来たら、全部やる。来へんかったら、自分の切手全部とナイフを寄こせや」(3枚目の写真)〔賭ける物があまりに不均等。切手の方が遥かに高価〕。当然、女生徒は反対するが、フランキーは聞く耳を持たない。
  
  
  

家に帰る途中で流れるフランキーのナレーション。「父ちゃん、何日も書いてなくてごめん。忙しかったんだ。父ちゃんも忙しかったんだね。突然、コースを変えて、北に戻るんだもん」。ここで、フランキーは、ケープタウンのピンを抜き(1枚目の写真)、グラスゴーの西のグリーノックにピンを刺す(2枚目の写真)〔ネットによれば南アからイギリスまでの航海日数は約1ヶ月。だから、もうすぐケープタウンという手紙を受け取ってから数日(?)後に、その船がスコットランドに着くハズはないのだが、9歳半の子供には、そのことが理解できなかった〕。フランキーの下書きを入手した母は、チップショップのパート・タイム中に、店の裏に出て読む。「リッキー・ムーアが言うてん。父ちゃんを信じてるとドツボにハマルぞって〔put his big feet right in it〕。上陸でけへんかもって、何百回も言うてんけど、あいつ、こうしたコトに疎うてさ。頭悪うて、嘘つきなんや。父ちゃんが、ぼくに会いたないんだって言いよった。そやさかい、どないした思う? 賭けてん。サッカーの予選に父ちゃんを連れてくって」(3枚目の写真)。
  
  
  

夜、アパートに戻った母は、自分の部屋のクローゼットの中に隠してあるスーツケースを開け、中にあった写真の中から、結婚式の時に撮影し、その後、家を逃げ出した時に破り捨てた夫の顔をじっと見る(1枚目の写真、フランキーの切手アルバムの裏表紙に貼ってあった写真の片割れ)。すると、いきなりドアが開いたので、母は、フランキーかと思って大慌て。実際は、祖母が、「牛乳のお金が要るわ。3週間も借ってるさかい、そろそろ取りにくる」と言う〔ここに引っ越してきてから3週間しか経っていない〕。母は、「財布はテーブルの上。二度とこんなんせえへんで」と注意する。「こんなんって、なんや?」。「ノックもせずに、ここに入ること。フランキーや思たちゃうん」。「なんか、隠すものでもあるのかい?」。母はドアを閉めさせ、フランキーの下書きを見せる(2枚目の写真)。祖母は、「いつか、こんなんが起きるんちゃうか思うとった。どないすん気や? 引っ越す?」と訊く。そして、さらに、「リジー、いつまでもこんなん続けられへんわ。フランキーのホントのこと話しなはれ。分かってくれるわ。どんな父親やったか、知るべきやで」と説得する。母の心は揺れる。
  
  

そして、その翌朝。祖母が、いつものように新聞を見ていると、「案内広告」の欄の下の方に、「リジー・モリソン」の名前を見つける。そこには、「リジー・モリソン 28歳 は6,7年前から行方不明です。彼女は、この地方のどこかに住んでいると思われます。彼女の身長は約5フィート7インチ〔170cm〕、髪は濃い茶色です。私たちは、彼女と連絡を取りたいと思っています。情報をお持ちの方は、次の番号までご連絡をお願いします」(1枚目の写真、矢印)。それを読んだ祖母は、リジーに黙ってアパートを出ると、近くの公衆電話に行き、書いてあった番号に電話をかける。そして、相手には何も言わせず、「消えて。どっかに行って、うちらを放っといて。頼むさかい、うちらを放っといて」と言い、電話を切る。
  
  

その日の昼間、フランキーと真面目な女生徒は、海岸に放置されたボートの中で話し合っている〔話すのは、もっぱら女生徒〕。最初は、たわいもない人魚の話だったが、少女が 「フランキー、なんでママに訊いてみーへんの? パパがちゃんと帰ってくるか訊くねん」と言うと、フランキーは、首を横に振って “訊かない” と意思表示。「知りたいけど、知りたないのね。そんな時、うちならどないすんか知ってる? ママのワードローブの中を見んねん。うちに見したない物があったら、ママは必ずワードローブの奥に隠すねん。これまでいっぱい見つけてきたわ」。そう言うと、「コンドーム、悪いビデオ、安いタバコ」と例をあげ、フランキーを笑わせる。そして、「あんたのパパは、ちゃんと来るってママに書いてる思う。せやけど、サプライズで、黙ってんねん」。そう言うと、フランキーのアパートまで行き、母親の部屋に連れ込む。しかし、予想に反してワードローブには鍵がかかっていた。2人であちこち探すが鍵はない。代わりに少女が見つけたものは、先に10cmくらいの細い金属棒の付いたもの。果敢な少女は、それを使ってワードローブを開ける。少女が、真っ先に飛びついたには、例のスーツケースだが、当然開かない。そこで、それを後回しに服を見ていると、ウェディングドレスを見つける。女の子らしく、さっそく外して 自分の体に当ててみる(2枚目の写真)。その瞬間、ドアが開き、母が入ってくる。「そこで、何してんねん? うちのやで。下に置きなはれ」と、少女に命じた後、今度はフランキーに向かって 「他に何に触ったん?」と訊く。フランキーは何度訊かれても黙っている。母は、「二度とうちの物に近づかんといて。全部、うちの物。あんたの物はなんもあらへんの。なんもやで」。そう強く言うと、指を1本立て、「うちにだって、一つくらい、プライバシーがあってもええんちゃう」と訴える(3枚目の写真)〔母は、この中に、フランキーを騙している証拠が入っているので、必死だ〕
  
  
  

母は、言い過ぎたと思い、その日の夜、フランキーのベッドまで来ると、「大切な話があんねん」と言い出す。手話:「分かってる」「パパの船のこと知ってる」「彼、僕に会いたくないんだ」(1枚目の写真)。母は、「もちろん、会いたがってるわ。うちに会いたいとは思てへんでも、いつも、あんたには会いたがってる。彼の子供なんやさかい」(2枚目の写真)。こう言った後で、「きっと、ただ、でけへんだけなんよ。めっちゃ時間が経ったさかい」と、望みが叶わない可能性を仄めかす。
  
  

母は、このまま放っておけないと 覚悟を決める。そして、1日だけフランキーの父親役をやってくれる人を見つけようと、夜になると男だけが集まるパブに入って行く。しかし、カウンターに座った母に、バーの女将が注文を訊き、バカルディ・コークというカクテルを頼むと、飲み物を持ってきた女将は、「ここで客拾いは、止めて欲しいわね」と、売春婦だと誤解して注意する。その言葉にショックを受けた母は(1枚目の写真)、早々にパブから退散する。そして、港の見える遊歩道のベンチまで行くと、どうしようもできないと分かり、悲しくなって泣く(2枚目の写真)。母は、そのベンチに茫然とした様子で 座り続ける。すると、そこにチップショップの店主が、ボーイフレンドと一緒にやって来る。そして、ポツンと1人で座っている母〔というか、パートの従業員〕を見つけると、心配して、ボーイフレンドと一緒に自分の家まで連れ帰る。そして、翌朝、母は、「うちが何しとったのか、死ぬほど知りたいやろうな」と話す。店主:「そうちゃう言うたら嘘になるけど、言いとうなかったら、黙っとってええねん」(3枚目の写真)。母:「うち、男の人を探しとってん。見知らへん人。過去も現在も未来もあらへん。フランキーのパパをやってくれる人をね。たった1日だけでええ。お礼はするつもりやった」。アパートに戻った母は、一晩黙って不在にしたことを、祖母から責められる。母は、「メリーの家におってん」と言う。「問題は解決したわ」。
  
  
  

そして、母は、グラスゴーに出て、ホテルの1階にあるカフェで、メリーが手配してくれた男と会う。どんな人が来るか分からないので、母がきょろきょろしていると、1人の男が前まで来て、「リジー・モリソン?」と訊く。「ええ」。それは、フランキーの父親と言ってもおかしくない年齢の男だった〔後で分かるが、顔も若干似ている〕。男は、「アメリカン・コーヒー、濃い奴」と注文(1枚目の写真)。母は、ただの水道水を頼む。男:「メリーは、あんたのことあまり話してくれへんかった。過去も現在も未来もあらへん。それが望みだそうやら」(2枚目の写真)。母は、フランキーが父に送った手紙の束を、「数年前から書いてんねん」と言って渡す。「彼は、ここグラスゴーにある郵便局の私書箱に送り、うちが月に2度回収して、返事を書くねん」。そう言うと、返事の1通を見せる。男は、「こらスコットランドの消印や」と、矛盾を指摘する。「ええ。あの子には、船から出した手紙は、中央郵便局を経由するって話したるさかい、疑問に思わへん。うちがこのやり方を作り、何年も続けてきたの。船もでっちあげ。切手で見た名前。ホンマにあるかどうか分からへん」。母は最後に、父親と別れる数ヶ月前の幼児の時の写真と、現在の写真を見せる(3枚目の写真)。「フランキーは、耳が聞こえへんけど、読唇術は抜群やで」。「何歳や?」。「9歳半」。「パパの顔は覚えてるんか?」。「うちだって覚えてへん」。「フランキーは、パパの写真を持ってるか?」。「いいえ」。「確かか?」。「ええ、確かいな。メリーは、あんたがここに1週間しかおらへん言うとった」。「来週月曜、出航する」。「船乗りなのね。ぴったりやわ」。
  
  
  

翌朝、祖母がフランキーの部屋に行くと、姿がどこにもない。母は、もうすぐ男が来るので、フランキーを探しに行こうと必死になる。メリーは、「うちが見つけたるさかい」と言って、出かける。アパートで呼び鈴が鳴った頃、勘の鋭いメリーは、港を見下ろす高台にいるフランキーを探し当てる(1枚目の写真)。アパートでは、母が、「5分以内に戻って来へんかったら、ドックに行ってみるわ」と焦る。男は、「彼は、船には行かん」と断言する(2枚目の写真)。祖母は、「なんで分かるん? まだ会うてもおらへんのに」と訊く。「彼は、サプライズを大事にするハズや。俺がギャンブル人間なら、そうちゃうが、賭けたってええ」。母は、「紅茶飲みます?」と訊き、「かんにんな、名前も知らへんの」と付け足す。男は、「フランキーのパパの名は?」と訊く。「デイヴィ」。「ほな、デイヴィと呼んだらええ」。母は、お金の入った封筒を渡し、「今、半分、残りは後で」と言う。その時、玄関に、フランキーを連れたメリーが現われる(3枚目の写真)。
  
  
  

フランキーが “デイヴィ” の待っている部屋に入ってくる。「これが、あんたのパパやで」。“デイヴィ” は、怖い顔で、「やあ、フランキー」と言う。反応がないので、「大きなったな」。まだ反応なし。「間に合うかどうか分からへんかったさかい、来るとは言わへんかった」。そう言うと、「君に渡すもんがある」と言い、カバンを開ける。母は、「フランキーは、なんも期待してへんさかい、必要あらへんのに」と言い、“デイヴィ” も 「分かってる」と言いながらバッグから取り出した物は(1枚目の写真、矢印)、『海洋生物』という、大人向けの専門書。フランキーは、どうして知ったか、母に手話に尋ねる。それを聞いた “デイヴィ” は、「読んだ」と母に言う。母は、フランキーが “父” に背を向けていたので、180度回転させる。“デイヴィ” は、フランキーに向かって、「手紙を読んだ」と言い、それを聞いたフランキーは、感動して “父” に抱き着く。子供にそんなことされた経験のない “デイヴィ” は、どうしていいか分からないが(2枚目の写真)、そのうち 気が付いて、両手でフランキーの背中を抱く(3枚目の写真)。フランキーが失踪していたので、サッカーの予選に遅れている。そこで、母は、「リッキー・モンローの顔、撮ってやりなはれ」と言って小型カメラを渡すと、2人を送り出す。試合はもう始まっていたが、フランキーが背の高い男と一緒なのを見たリッキーは、ポケットに入れていたカードの分厚い束を渡す。“父” は、「賭けは賭けだ。公正かつ正直に勝ってん」とフランキーに言い、フランキーはカードを受け取る。フランキーは、キーパーとして活躍するが、それを 母が物陰から嬉しそうに見ている。
  
  
  

その後、“父” とフランキーは、メリーの店のテーブルに座る。何を頼むかフランキーがなかなか言わないので(1枚目の写真)、業を煮やしたメリーは、メニューに触れると、「早して、フランキー。30分も待ってるわ。戻らな。いつものでええんやん? チップスで」と言い、フランキーもニヤニヤする。「俺もだ。魚のフライを付けてくれるか?」。それを聞いたフランキーは、面白くなさそうな顔になる。メリーは、「フランキーはベジタリアンやで。野菜を食べへんベジタリアン」と言う。それを訊いた “父” は、「変えてええか?」と訊く。「もちろん」。「俺も魚は止める」(2枚目の写真)。フランキーは注文書をメリーから借りると、「これ、僕の父ちゃんだよ」と書き込む(3枚目の写真)。母は、その様子を、レジの簾の向こうから見ている。2人の仲良しぶりを笑顔で見ていた母だったが、目を逸らした隙に、2人が店から出て行く。心配になった母は、メリーの反対を押し切って後を追う。
  
  
  

“父” は、フランキーを貨物船ACCRAまで連れて行く(1枚目の写真)。「大きいやろ? どんなサメにも負けへんで」(2枚目の写真)〔彼は、真面目に、すべての手紙に目を通している〕。そして、「乗りたいか?」と訊く。フランキーは首を横に振る。「なら、写真を撮ろ」。フランキーはカメラを取り出すと、ツーショットの写真をパチリ(3枚目の写真)。これには、心配性の母もホッとする。
  
  
  

そのあと、2人は浜辺の桟橋の近くに行く。フランキーは、石をせっせと拾っては、“水切り” に挑戦するが、何度やっても、1回、ぼちゃんと落ちるだけ(1枚目の写真、矢印)。“父” は、「でこぼこ過ぎる。ひらぺったいのをスレスレに投げんかい」と言うが、距離が離れ過ぎていて、フランキーは気付かない。同じ失敗を繰り返すフランキーを見て、“父” は近くに寄って行き、最も適した形の石を見つけると、「これが、チャンピオンの水切り石や」と言って渡す(2枚目の写真、矢印)。フランキーは、父からもらった貴重な記念品なので、大切にポケットに入れ、他の石を使って、相変わらず下手に投げる。“父” は、そんなフランキーを、「走らへんか」と誘い、2人が、海水が残った浜辺を疾走して行く姿が映る(3枚目に写真)。次のシーンでは、2人は熱帯魚の水槽をじっと見ている。フランキーが一番魅了されたのは、タツノオトシゴだった(4枚目の写真)。アパートに帰る途中で、“父” は 「考えがある」とフランキーに言う。
  
  
  
  

祖母は、玄関で、帰って来たフランキーを歓迎するが、“父” に対しては、「時計持ってへんの?」と言い方が厳しい。「悪い。時間が経つのが早うて」。祖母は、フランキーを呼ぶと、「さいならを言いなはれ」と言うが、フランキーは首を強く横に振って拒否する。“父”:「彼は疲れてる。長い1日やった」。祖母は、渡りに船で、「もう1回言うてくれたら、終わりにできるわ」と言い、「チェリオ、どうもおおきに」と別れの言葉を言う(1枚目の写真)。祖母は、フランキーに 「さあ、フランキー、チェリオ言うて」と言うが、これも拒否。そこに、2人をずっと追いかけていた母が戻ってくる。フランキーは母のところに飛んで行くと、手話で何か話しかける。それを見た “父” は、「彼は、あんたになんか頼んでる思う」と言う。母:「うちに 何頼んでる思うの?」。「俺は、月曜まで船に戻らへん」。「そやさかい?」。「そやさかい、もう少しフランキと一緒におってやれる。フランキーとあんた。3人でだ」。「あかん」。フランキーがすがるように母を見ても、「あかん」〔なぜ母が、こんなに頑ななのかは分からない。こんな親切な申し出を断るとは。その言い方も、気に食わない〕。フランキーは、玄関から中に入れられる。母:「うちら、取り決めたわ。あんたは、それ破った」。「あと1日や。それだけ」。「今すぐ、出てって。これで終わったんやで。聞こえた?」。「船はあと1日で出航する。残りは1日だけや」。「あんた、何様なん? ここに来て、そんなんを言う権利、誰が与えたん?」。「君や。彼は、長いこと待っとった。君も待っとったハズや」(2枚目の写真)。フランキーは玄関から飛び出してきて、“父” に抱きつく。これだけ強い意思表示を見ると、断る弊害の方が大きいので、頭の固い母も、「1時にここで」と譲歩する。「1時に埠頭でだ。俺は埠頭で仕事がある。そこで会う方が簡単や。俺を信じんかい。あんたも、誰かを信じること覚えなな」。この言葉は、母の心に食い込み、1時に埠頭を了解する。フランキーが中に入ると、母は、残りの謝礼を渡す。ベッドに横になり、脚を壁に立てたフランキーが、“父” にもらった水切り石を見ていると、そこに祖母が入って来る。フランキーは石を祖母に渡す(3枚目の写真、矢印)。「パパがくれたん?」。フランキーは大きく頷く。「きれいなんかい。これなら飛ぶわ」。
  
  
  

翌朝、祖母が、いつものように新聞を見ていると、非常に拙い広告が載っている。母は、祖母の態度を見て、強制的に新聞を取り上げる(1枚目の写真)。そこには、「尋ね人」という見出しとともに。6-7年前の母の写真が大きく掲載され、その下には、前回の記事と同じような内容の特徴が書かれている(2枚目の写真)〔祖母がか掛けた電話がアダになった〕。公衆電話から戻って来た母は、祖母に、「ジャネット〔別れた夫の姉〕が会いたいって」と言う。「彼、死んだの?」。「重い病気だそうや」。「こら罠やで」。「彼は、フランキーに会いたがってる」。「ここを出ましょ。今夜中に。彼に借りなんてあらへんのやさかい」。
  
  

母とジャネットは、グラスゴーの植物園内の川に架かるHumpback橋(1841)〔欄干の鋳鉄の細工がきれい/材料が鋼鉄ではなく鋳鉄なので錆びない〕の上で会う(1枚目の写真)。2枚目の写真は現在の姿。イギリスの文化財級の橋は、2010年以後、このようなきれいな色に塗装されるようになった。「こんなん頼めた義理ちゃうねんけど、彼はうちの弟やで。彼は、哀れな姿で、昔の彼とはちゃう。確実に死んでまう。あんたが、会いに行ってくれたら」。「嫌やで」。「お願いやで。過去のことは忘れて。フランキーのためにも」。「フランキーに構わんといて」。「彼、死ぬねん」。「どのくらいで?」。「分からへん。彼の中にどのくらい力が残ってるかで決まるわ」。「あの人なら、力なら いっぱいあってや」。強気の母も、最後には ジャネットのすがるような説得に折れて、「私一人で彼に会うわ」と条件を付ける。「彼は、フランキーに会いたいねん」。「まず会うて、息子を近づけてええかは、うちが決める」(3枚目の写真)。
  
  
  

1時になってフランキーと母が埠頭に行くと、“父” が貨物船ACCRAの船上から手を振っている(1枚目の写真)。それを見たフランキーは、大喜びで手を振る(2枚目の写真)。しばらくすると、“父” が階段から降りる時、一番上に陣取っていた髭男にこっそりお金を渡す(3枚目の写真、矢印)。“父” は船員かもしれないが、ACCRAの船員ではないので、頼んで入れてもらったことが分かる。2人の前まで来た “父“ は、フランキーに、「どこに行きたい?」と尋ねる。フランキーが選んだのは、昨日、リジーが捜しに行った “港を見下ろす高台”。フランキーは、2人に、草の上に座るよう手話で頼む(4枚目の写真)。
  
  
  
  

夕方になり、3人はダンス会場の前でメリーと出会う。メリーは、「ところで、どう思た?」と “紹介した父役” のことを訊く。「別に何とも。なんで?」〔いい人を紹介してもらったのだから、せめて、「フランキーに良くしてくれるわ」くらい言ってもバチは当たらないと思うが…〕。「別に、ただ心配やったさかい」。「ただのビジネス契約やで。それに、彼の船は明日出航すんねんて。彼の話やと」。「そう言うたのね」〔彼が船員ではない可能性もある〕。一方、その “父” は、フランキーと意気投合(1枚目の写真)。しばらくして、母とメリーのテーブルに、“父” とフランクが合流する。そこで、ポケットからタバコの箱を取り出した “父” を見たメリーが、うっかり、「いつから、こんなん吸い始めたん? 手巻きタバコはどないしたん?」と訊いたので〔フランキーの父が昔からメリーと親しいことになる〕、母は思わずヒヤリとするが、幸い、フランキーは靴を直していて、唇を読んでなかった。メリーのボーイフレンドがステージで歌い出し、その音楽の演奏者の一人が、フランキーに優しい少女。さっそくリッキーが寄って来て、「カトリオナをダンスに誘わへん方に、全部のカードを賭ける」と言い出す。それを隣の席で聞いていた “父” は、「君がダンスしたら、俺は君のママとダンスする」と、賭けに勝つよう促す。そして、今度は反対側の母を向き、「踊ろ。一度だけでも。フランキーが別の賭けをしてん」と話す。フランキーは、まっすぐカトリオナに向かって歩いて行く。しかし、途中で、楽しそうに踊っている “父” と母を見ると、賭けのことなどどうでもよくなる。そして、2人のダンスを嬉しそうに見ている(2・3枚目の写真)。
  
  
  

ダンスが終わり、メリーとフランキーとボーイフレンド、“父” と母は、少し離れて海沿いの遊歩道を歩いて家に向かう。前半の会話はたわいもない話だが、後半に重要な会話がある。その前座。「メリーとはどこで会うたん?」。「ノー。同意した思た。素性は言わへん」。「状況が変わったわ」〔好きになった?〕。そして、重要な会話:「俺には、どないしても分からへん。理解でけへん。なんでこんなんを?」。「もう言うたやん、フランキーが賭けをしたさかい」。「ちゃう、ちゃう。なんで、彼は君たち2人を残して去ってん?」。「彼が去ったんちゃう。うちが去ったんやで。ある晩、フランキーを連れて逃げたの」「二度と戻らへんようにするため、うちの母も一緒に来てくれた。それ以来、逃げ続けてる」「フランキーの聴覚障害は生まれた時からのものちゃう。彼がやってん」〔外傷性鼓膜穿孔なら1・2ヶ月で治る。耳小骨損傷や、外リンパ瘻なら手術が必要だが、母は、それを怠っていたのだろうか?〕。「うちは、母親やのに、毎日、フランキーに嘘をつき続けたの」。「そうちゃう。君は、毎日、彼を守っとったんや」(1枚目の写真)。途中で、フランキーが疲れて眠ってしまったので、アパートに着いた時には “父” が抱いていた(2枚目の写真)。
  
  

“父” は、フランキーをベッドにそっと寝かせると、「さいならを言うてええか?」と母に尋ねる。「もし、起こしたらね」。“父” は、初めてフランキーの部屋を見て、ピンをいっぱい刺した世界地図に微笑む。すると、フランキーの目が開き、起き上がると、「戻ってくる?」と、初めて自分の口で尋ねる(1枚目の写真)。「分からんな。フランキー」。それを聞いたフランキーは、大切な物を入れておく箱を取ると、中から木彫りのタツノオトシゴを取り出して “父” に渡す(2枚目の写真)。「これ、君が彫ったのか?」。フランキーは頷く。「フランキー、俺には受け取られへん。こら君ねん」。それでも、フランキーは受け取らない。“父” は 「光栄に思うで」と言うと、小指を差し出す、フランキーも小指を差し出す、いつかまた会おうという約束だ(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

“父” が玄関のドアから外に出ると、待っていた母と 長い間見つめ合う。そして、いつしか2人は額を合わせ、最後にはキスする(1枚目の写真)。窓の所に立って待っていたフランキーは、“父” の姿が見えると、窓ガラスをトントンと叩く。“父” が振り返って窓を見上げると、フランキーは手を振り(2枚目の写真)、“父” もそれに応えて手を振る(3枚目の写真)。母が、コートに両手を突っ込んだ時、右手が何かに触れたので、引っ張り出すと、それは、彼女が、“父の代役料” として2回に分けて渡したお金だった(4枚目の写真、矢印)。母は、彼は特別な人に違いないと思う。
  
  
  
  

翌朝、母は、覚悟を決めて、別れた夫に会いに病院に行く(1枚目の写真)。リジーに気付いた元夫〔法律上は離婚していないので、夫か?〕は、「こんな惨めな格好でかんにん。久し振りやな。君は、きれいだ」と、弱々しく言う。「ちゃうわ」。「かんにんな。かんにん、リジー。ホンマにかんにん」。「もう、ええねん。泣かんといて」。「フランキーはどこや?」。「学校やで。今、9つ。もうすぐ10」。「分かってる」。「地理は成績トップやで」。夫は、手を差し出す。リジーは、ほんの少し、指の先端に触る。「彼に会いたい。会う権利がある」。「よう言えるわね〔Don't give me that〕」。「争うてる時間はあらへん。彼に会わしてくれ。俺が申し訳あらへん思てると、知って欲しいんや。彼は、俺の息子や」。「あんたの息子ちゃう。うちの息子やで。あんたには、そんな資格はあらへん。許しを請う資格もね」。それを聞いた夫は、本性を現わす。「俺は過ちを1つ犯した。愚かでえげつない間違いを。ほんで、自分〔お前〕はそれに復讐してる。自分はスベタ。ただのスベタや」。ここで、死が近い人間とは思えない大声を出す。「息子に会わせろ! 権利がある! 父親やで!」(2枚目の写真)。これに対し、リジーは反撃する。「あんたは、父親なんかちゃう。彼には、今、別の父親がおる。ほんまの父親が。親切で優しゅう、水切り石の投げ方を教えてくれるような! あんたは、父親になんかにはなられへん!」。夫は、「息子に会わせろ!!」と怒鳴り、姉は看護婦を呼ぶ。そのあと、病院から逃げて走るリジーと、それを追いかけるジャネットが映る。リジーに追いついたジャネットは、リジーの腕を捕まえ、「リジー、お願い」と言う。「彼、うちを殺そうとしたのよ、ジャネット」。「分かってる。せやけど、彼の命はあと数日しかもたへん。安らかに死なしてあげて。あんた自身のためにも」。彼を恐れて逃げ続けたリジーは、その言葉に腹を立て、何も言わずに立ち去る。
  
  
  

アパートに戻った母は、学校から帰って来たフランキーに、「話したいことあんねん。めっちゃ大事なことやで」と話し始める。「今日、あんたのパパから伝言を受け取った。彼、めっちゃ具合が悪いの。重病やで」と話す(1枚目の写真)。昨日、あんなに元気だったのに。フランキーは、肩を落とす。さっそく自分の部屋に行き、ナレーションとともに、タツノオトシゴの絵を描き始める。「父ちゃんへ。この絵、気に入る思うで。ぼくの本から写してん。母ちゃんは、父ちゃんがめっちゃ具合が悪いって言うとった。早うようなってや。息子から愛を込めて。フランキー」(2枚目の写真)。母が翌日病院に行くと、夫は、死の淵にある。母は、看護婦に、昨夜フランキーが描いた絵(3枚目の写真)と、現在の写真を渡し、早々に病院を立ち去る。数日後の夜。母は、地元紙に載った死亡通知をフランキーに呼んで聞かせる。「デイヴィ・モリソン。長い闘病の後 安らかに眠る。フランキーの父」(4枚目の写真)。
  
  
  
  

数日後、店が終わった後、メリーはリジーに、「こんなん言うの恐ろしいけど、デイヴィは、最後にあんたの望みを叶えたわね」と話す。リジーは、「メリー、彼、誰やったん?」と訊く。リジーと弟をくっつけてもいいと思っているメリーは、「やで」と教える(1枚目の写真)。リジーには青天の霹靂で、言葉が出て来ない。そして、どんな顔でメリーと話せばいいのか分からないので、足早に立ち去る。「どこに行くの?」。「後で、会いましょ」。その後、リジーはグラスゴーの郵便局に寄り、フランキーの手紙が、まさか届いてないか確認する。すると、予想に反して1通の手紙が届いていた(2枚目の写真、矢印)。
  
  

母は、帰りのバスの中で封を切って読んでみる。最初に出てきたのは、フランキーが “父” と一緒にACCRAの前で撮ったツーショットの写真。そして、手紙のナレーション。「本をおおきに。今まで、もう2回も読んだで。ぼく、学校に持ってった。気にせえへんと知っとったさかい」。ここで、場面はバスの中から、海岸で、カトリーナとリッキーの前で、フランキーが水切り石を投げるシーンに変わる。フランキーが投げた石は(1枚目の写真)、5回跳ね、6回目からは水上を滑って行く。びっくりしたリッキーが、思わず口笛を吹く。「マッケンジーせんせは、本を貝なんかが展示したーるテーブルに置き、ぼくに金星をくれた。今までぼくがもろたのは8個。カトリーナは20個。リッキーはたった1個で、それも金ちゃうねん」。部屋に戻ったフランキーは、部屋の地図に刺してあったピンをすべて取り除き、地図自体も外す(2枚目の写真)。
  
  

ここで、再び、バスの中で手紙を読む母に変わり、手紙の下半分(1枚目の写真)のナレーション。「聞いてや。ぼく、サッカーチームに入った。補欠やけど。土曜に試合があるんや。もう1つ聞いてや、今週、ぼく、地理で1つ間違えてもうた。母ちゃんと、ぼくは、先週ちょいショックやった。ぼくの父ちゃん……ホントの父ちゃん……は病気やったんや。長いこと病気やったみたい。母ちゃんはなんも言わへんかった。せやけど、ぼく、今知ってん。先週、彼、死んだって。母ちゃんは内心、悲しんでる思うけど、メリーは、時がいやしてくれるって。そやさかい、母ちゃんは、もう元気やで。ぼくがおるもん」。ここから、2枚目の紙。一番重要な紙だ。「ぼく、もう行かな。お茶の用意ができたって。チップちゃうとええな。今週は、もう3回も食べさせられた。きっと、もういっぺん、会いに来てくれるでなあ。次に船が埠頭に着いた時に。あんたの友〔きっと、もう一度、会いに来てくれるよね。次に船が埠頭に着いた時に。あなたの友〕フランキー」。それを読んだ母は、思わず涙を流す(2枚目の写真)。港の桟橋の先端に座ったフランキーの横に母が座る。2人は顔を見合わせる(3枚目の写真)。フランキーの顔は、“いつか会いたいな” という顔。母の笑顔は、それを許容しているように思える。メリーの弟と、母が結婚する可能性はあるのだろうか? 少なくとも、メリーの弟が時々会いに来てくれる可能性は高い。メリーの言葉から、弟が船乗りでない可能性も高いので、気が向けば、いつでも来てくれるかも。
  
  
  

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  イギリス の先頭に戻る          2000年代前半 の先頭に戻る